11】 そして怪しい男は言いました。
「だったら、このお金を置いていけばいいさ! これだけのお金があれば、どんな病気だってじきに治せるのだよ? ほらごらん、ミチコちゃん! これが全部お金なんだよ?! 君はこんなに沢山のお金を今までみた事があるかい?」。
ミチコは素直に答えます。
「ううん、無いわ…」。
「そうだろうとも! 君のお父さんが毎日の仕事で手に入れるお金ってえのは、こういう『紙のお金』じゃなくって、金属でできた小さいお金だろ? だったら、そんなちょっとのお金では君のお父さんの病気は治らないんだ。だけど、こういう『紙のお金』がこれだけ沢山あれば、美味しい栄養満点のご馳走が食べられて、暖かくて柔らかなフトンで眠れて、冬でも暖かく、夏でも涼しく暮らせるんだ! それに、立派な病院に入院して良いお医者様に診てもらえて、それですっかり元通りの元気な体にだってなれるのさ!! …ミチコちゃん! 君がお父さんのめんどうをみてあげてるのはとても立派な事だ。けれど、それでは”病気は治らない”のだよ!! それよりも、ミチコちゃんはこの優しくてとても親切なオジサンについて来てくれて、そのお返しに、オジサンが持って来たこのお金を置いていってあげるほうがよっぽどお父さんが元気になれるよ! …君のお父さんの病気が治るのと治らないのと、どっちが嬉しいかなあ?」。
ミチコはしばらく黙って考え、そして、ハッキリ答えました…。
「…もちろん、お父さんが元気になるほうが良いわ!」。
男は満面に下品な笑みをたたえながら言いました。
「そうだろうとも! じゃあ、ミチコちゃん。オジサンについて来てくれるね?!」。
「ウン! ワタシ、オジサンといっしょに行くわ!」。
…こうしてミチコは、この知らないオジサンにつれられて、どこか知らない、遠い町へと旅立ったのです…。