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電人少女 第参章

『さすらいの電人少女』

14】  ここは,とある田舎町の縁日です。
   リンゴ飴や綿菓子などの色々な屋台が立ち並ぶ中,一際目を引く大きなテント小屋があります。
   小屋の入り口では,呼び込みのおじさんが軽快な口調で口上を述べています。
   古いスピーカーから割れんばかりの大音量で,呼び込みの口上が途切れる事なく流れています…。
   「…是はこれ,世にも因果な人の子の運命であります
…産まれましたのは,雪のサハリンは奥深い山の中であります。
お母さんの名前は山田トメ子,お父さんの名前は山田スエ吉と申されます…。
…二人には子どもが無かったので,得体の知れぬ山中の神社に祈願し,やがて授けられられたのが,皆さん!
 恐ろしや,表看板にあるがままの”鉄娘”,花チャンでした…。
あまりの驚きに,山田トメ子は哀れやそのまま,冥土黄泉の客となり,
残された山田スエ吉は,つくづく因果の恐ろしさをさとり,
西国巡礼の旅に出るとともに,
「花チャン」を世の多くの人々に御覧にいれまして,
せめてもの罪障消滅をはかろうとしてここにおりまする…。
人の身の上と思し召さず,我が子,我が身に引き換えて,
一度だけは御覧下さい! ハイハイ,「花チャン」やあーい!」。
   そう呼びかけると,小屋の奥から
「アイ,アーイ!」,と返事が返ります。
 呼び込みのおじさんは更に口上を続けます…。
  「…あの可愛い声をお聞き下さい! さあ,まもなく始まります!
 決して怖くはありません。…現代の神秘!医学の謎!?
 ご当地にては初お目見えの『鉄娘』!! 
後学(こうがく)のため,ぜひ,一度は御覧下さい。
さあ! まもなく始ります!まもなく始まります…」。
   ジリリリリリリ! と,けたたましいベルの音が鳴り響く,
そのテント小屋の中では,『鉄娘』の『花チャン』が,
つたない芸当を披露しております…
が,賢明な読者はすでにお気付きでしょう。
   …「鉄娘の花チャン」とは,そう。我らがミチコの芸名なのでした…?!

15】 ミチコはきらびやかな衣装を身にまとい、天幕の天井に届きそうなほどはるか頭上で綱渡りを披露しています。
   その姿は、この世の者とは思えないほど美しく可憐でした。
   芸が終わると、満員の観客から、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こります。

 出番を終えたミチコに声をかける者がありました…。
   「ちょっとアナタ! あのくらいの芸でうぬぼれるんじゃなくってよっ!」
   声の主は、花形スターのユミさんでした…。














  16】 「いいこと!この一座のスターはワタクシなのです。あなたなどは、しょせん、美しいこのワタクシを盛り立てる為のピエロにすぎないのですわ! ツン! あんな大きな看板出してもらえたからといって、いい気にならないでくださる?! あなたは、ただ単に珍しいだけのゲテモノですわ! 機械なんて、ただ人間がする事の猿真似しかできない、心を持たないデク人形! ああ!あなたのその顔を見ていると気分が悪くなってまいりましたわ…。…いいこと! ここにいたかったら、ワタクシに逆らわないでくださいませ!」
   そう言うだけ言うと、ユミさんは自分の楽屋に帰って行きました。


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