その時、人間は誰一人として気付きませんでしたが、ミチコの耳にだけは、変なきしみが聞こえました。
「…あっ?! ユミさんが危ないわっ!!」ミチコは駆け出しました…。
18】
ミチコが駆け出したのとほぼ同時、ユミさんのブランコのワイヤーがぷつり! と切れたのです!!
「きゃー?! …じゃなくって、あーれー!」
ユミさんはこんな時でも自分のスタイルを崩さない、みごとなプロ根性の持ち主なのです。
「ユミさあ―ん!!」
ミチコは 全力疾走でブランコの真下へ跳んで行き、そしてジャンプしました!
しっかりと落ちてくるユミさんを空中で受け止め、無事着地しました。
観客は、突然のアクシデントにしばらくは呆然として静まりかえっていましたが、やがて拍手と大歓声を二人に贈りました。
「…ユミさん、お怪我はありませんか?」
ミチコがそう言うと
「…な、なによ、なによ! このくらいの事はこの世界にいればもう慣れっこだわ。アナタなんかに助けていただかなくたって、ワタクシ一人でもなんとかなっていましたわ! これでワタクシに貸しをつくったなんて、恩着せがましい事は考えないでちょうだい!」
とユミさんが言いました。
「いいえ、ユミさん。ワタシ、ただユミさんが…」
「ワタクシがなんですの?」
「ユミさんがあまりに綺麗だったから、それで思わず…気がついてたら助けていました。気に障ったったのなら御免なさいね?」
ユミさんは、「綺麗」だと言われたのは今までに数え切れないくらいあります。でも、こんなに本心から言う相手には、生まれて始めて出会いました。
ミチコの表情と言葉の響きには、何一つ「お世辞」も「ゴマすり」も混ざっていなかったのです。
ユミさんはミチコに言いました。
「ミチコちゃん!」
「はい?」
「…たぶん、ワタクシが生まれて始めて言う言葉だから、うまく言えないかもしれないけれど、お気を悪くなさらないでね? ……あ、ああ、あり、もう! ワタクシったら。えい! あ、………ありがとう!! あ、やっと言えたわ…」
ミチコは笑顔で元気よくいいました。
「どういたしまして!」