電人少女 第参章『さすらいの電人少女』

19】あれからというもの,ミチコとユミさんはすっかり仲良くなりました。
 「ミチコさん!」
   「はい,なんですか?」
   「まあアナタ,それはなんですの?!その衣装は?! そんなモノを着ていてはお客様に失礼ですわ! いいでしょう!…これはワタクシが初舞台の時に着ていた衣装ですけれど,アナタ,この次からはこれを着て出なさい。よろしくって?」
   「はい!」

   「…ミチコさん?」
   「はい,ユミさん」
   「はい,ユミさん,じゃなくてよ。何ですの?その靴!? よろしいですわ! これはワタクシが去年の誕生日にお父様から贈っていただいたモノですけれど,あなたさえよろしければ、お履きなさいませな?」
   「ユミさん,そんなにしていただかなくても…」
   「ダメです!」
   「わかりました!」

   「…ミチコさん?」
   「はい?」
   「あなた,何かアクセサリーはお持ちかしら?」
   「いいえ,持ってないです」
   「しようのない方ねえ…女の子なら自分を輝かせる為のアクセントになるモノを何か一つくらいは身につけておくものですわ! …いいでしょう! 先日,ワタクシのファンのさる紳士から頂いたネックレスがございますわ。これでも着けてレディーとして輝いてくださいませな?」
   「あ,これダイヤっていう値段の高い宝石じゃありませんか?」
   「それが何か
 「ダメです! こんな高価なものいただけません…」
   「ワタクシが差し上げるといってるのですからかまいません。それとも,何かご不満かしら?」
   「…いいえ。でも…」
   「いいのです! どーせそんなものは掃いて棄てるほど色々な方々から頂いてますのよ。ミチコさんにあげても全然困りません! お受け取りあそばせ!」
   「わかりました」

 …愛情の表現に少々問題はありますが,とにかくユミさんはミチコをとても可愛がりました…。


20】ユミさんという人は, 元々ある名門のお嬢様だったのですが,お父様の事業が「押し寄せる他社の機械化の波」にのりきれずに傾いてしまったのと(だから最初はミチコのことが生理的に気に入らなかったのです),中学のころからすでに色々なスポーツで「将来は確実にオリピックの金メダル候補」と言われていた,非常に運動神経に優れた人だったので,(ついでに言うと,生まれつき人々に注目される事も嫌いではなかったため),ミチコと同じく高額の契約金でこの一座に入ってきたのでした。
    元々スポーツの世界では結構有名だったのも手伝って,たちまち一座にとってなくてはならない花形スターとなり,ミチコが来るまでは文字どうり「一人でこの一座を支えていた」ようなものでした。
 そのため,ユミさんのお父様の「傾いた事業」も,ユミさんのお父様が
 「そんな金はいらん! ワシは自分で再建する」
と言って受け取ろうとしないのを
 「お父様! ユミが働いて稼いだお金だから受け取れないのですか?!」
   と,無理矢理仕送りしたお陰で,今では前にもまして大成功しているのです。
 ミチコは今まで 「運命に逆らえない」といったかんじの,おとなしく優しい人の中で育ってきたので,ユミさんのように 「運命など信じず,むしろ自分で運命を切り開いていく」タイプの人間に会ったのは初めてでしたから,たちまちそのキョウレツな個性に惹かれました。
 ユミさんも,色々な人間を見てきたから,ウソやお世辞なんかは,じきにみやぶってしまうのですが,ミチコはそういうモノには無縁でしたので,そのピュアな心がとても気に入ったのです。

 今では二人とも一座の人気者です。
   ペアを組んで実に息のあった名演技で毎日超満員の観客から惜しみない喝采と割れんばかりの拍手を浴びています。

 その評判を聞きつけて,一座にある大仕事の依頼がまいこんできたのでした…。


21】ミチコは、ユミさんとペアで出演するようになってからは、「鉄娘の花チャン」ではなく、「華麗なる電人少女・ミチコ」として、ユミさんに劣らぬスターになりました。
 方々で大評判になり、今や一座の公演のキップはプラチナチケットです。

   そんな一座に、政府から直々に要請が舞い込みました。

   「……今や、わが国は、グローバルスタンダードがナンたらカンたらで国際貢献に寄与しないと外国の政府がまた色々イヤミ言ってきたり、嫌がらせしてきたり、金だけ出してあとはホッタラカシだとかなんとか小うるさいもんだから、PKOだかPKFだか常任理事国になりたいから色々実績積まないとマズイから、今度紛争地帯に自衛隊派遣するんだけど、隊員たちも、なあーにも無い国に行って物凄お〜く退屈してるから、アンタラ行ってきて慰問してくれないか? ギャラはずむよ」

    ということで、一座は海を渡って、南十字星が良く見える、南の国へ公演にいったのでした…。


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