ミチコの愛くるしさは、隊員たちにもすぐに認められました。故郷に残した妹や娘を思い出し、皆ミチコによくしてくれました。
ユミさんは、というと、もちろん大人気です。
記念写真を一緒に写したがる隊員を整理するのに5時間もかかったし、行く先々でサインやら握手やらを求められてたいへんな騒ぎです。
でも、ファンを大切にするユミさんは、長旅とステージで疲れているのをまったく顔に表さず、いつも笑顔で快くそれらに応じています。
こうして、この国にある駐屯地を全部まわった一行は、わずかに余った時間を利用して、比較的安全な地域にある古代遺跡を見学に行きました…。
遺跡には、古代の寺院や、今では名前もわからず、だれひとり拝む者の無い神々の巨像が数多くあります。
それらを、ミチコは興味深げに眺めていますが、ユミさんは少々お疲れ気味のようです。
ミチコが言いました。
「…ユミさん、人間って…大昔から神様を信じて来たのですね?」
ユミさんは答えます。
「…そうね。ワタクシは、天国に召されるまでは、空の神様よりも、この地上の人間を信じようと思うのですけれども。だからと言って、神様を信じていない訳ではありませんのよ…そう、ワタクシとミチコさんが出会い、そしてこんなに仲良しになれたように、不思議な廻り合せの奇跡が世の中には沢山ありますもの。…ワタクシ、思うんですの。神様はただおひとかた、お名前もお姿も、ワタクシたち人間には本当は知りえないお方がいらっしゃるのでは? と。でもね、ミチコさん。そのお方のお名前やお姿や、そしてお心まで
を、人間はそれぞれの国の都合の良いように勝手に決めてしまいますのよ。…ねえ、ミチコさん。…人間ってなんてお馬鹿さんなんでしょうねえ?」
そう言って、ユミさんは笑顔でミチコの方に振り返りました。
が、ミチコは一点を見つめたまま、黙っています。
「どうかなさったの? ミチコさん」
ミチコは大声でユミさんと、この遺跡まで同行してくれた自衛隊員やサーカスの人々に向かって叫びました。
「皆んな逃げて! ここにいては危険です!!」