電人少女 第参章

『さすらいの電人少女』


24】ミチコが、皆に逃げるよう叫んだとたん、凄まじい地響きがして、轟音と共に巨神像が崩れ落ちました。
 皆大慌てで走り去ったので、なんとか無事に助かりました。
   「何ですの!? いったい何が起こったのです?」
 さすがのユミさんも、動揺の色を隠せないでいます。
 皆があっけにとられていると、どこからか怒鳴り声が響いてきました。
  「アヤメーケ! アヤメーケ!! ヒラパ、ヒラパー?! エキス! ポランド!? スポラーンドッ!! フェスゲェーッ!!」

 皆が、声のする方に顔をむけると、手に手に武器を持った恐ろしい形相の男たちが、現地の言葉で叫んでいました。
   「アヤメーケ! ヒラパ、ヒラパー! ズカ・ベルバラ!? ファミリ、ファミリィ?! ミリーランド、リランド! ハンキュ・エンセェーンッ!!」

 それを聞いたミチコが皆に伝えました。
   「この人達はこう言ってます…おまえたちは何者だ? ここで何をしているのだ。この、『古代アヤメーケ文明の遺跡』周辺は、つい先程、我々『ヒラパー』の精鋭部隊が占拠したのだ。そして、いにしえの邪教の偶像は、我々の信仰には無用、かつ目障りなので、今からすべて破壊する。きさまらも邪魔だてすれば容赦しないぞ!…と、この人達は言っています」
   ユミさんは驚きました。
 「ミチコさん、あなた、いつの間にこの国の言葉を覚えたの?!」
   ミチコは答えます。
 「わたし実は…言葉を覚えるのだけは得意なんです。生まれつき…」
   それを聞いて、ユミさんは感心しましたが、すぐにそれどころじゃ無いのに気付き、ミチコに頼みました。
 「言葉ができるならハナシが早いわ! お願い、ミチコさん。こう伝えて下さいませ! ワタクシたちは、日本から来たサーカスの団員で、たまたまここに見学に来てただけで、アナタ方には一切ご迷惑お掛けしませんし、すぐにここを立ち去ります、と。 お願いね?」
   ミチコは、そのとうりに通訳しました。
 ミチコの翻訳した言葉を聞いた、武装集団のリーダー格らしき男が言いました。
   「……ヘップ・ナンデカ! オクジョアン、ナンアンネン!! カンラーンシャ、カランシャ!!」
   その言葉を聞いたミチコの表情が凍りつきました。
   ミチコは思わず、使い慣れている日本語でつぶやきました。
 「…そ、そんな?! お願い、そんなヒドい事はやめて下さい!!」



25】ユミさんがミチコにたずねました。
   「ミ、ミチコさん、この方々、何とおっしゃってますの?」
 「………」
 ミチコはなぜか黙ったままです。
 「お願い! 何かおっしゃって!?」
 ミチコは言いました。
   「……お前たちが日本人ならば、なおさら帰すわけにはいかない。我々『ヒラパー』は、現政権と対立している。そして、現政権は日本と仲が良い。現政権と仲のいい国の国民が、この国で殺されれば、現政権には都合が悪く、そしてそうなれば我々にとっては都合が良い。お前たちにはここで死んでもらう…そう言ってます」
   ユミさんは驚きました。
 「な、なんですって?! なぜワタクシたちが死ななければならないのです?!」
   銃を手にした『ヒラパー』の兵士が、じわじわと皆に近付いて来ました…。
   ユミさんは、護衛について来てくれている自衛官に言いました。
 「な、なんとかなりませんの?」
   自衛官が答えました。
 「…我々は、自衛の為に武器を携帯しておりますから、向こうが攻撃するまで何もできないのです」
   ユミさんはあきれました。
   「先に撃ってきたら、皆死んでしまいますわ?! ああ、お願い、誰か助けて下さいませ!…実を言うとワタクシ、殺されると死んでしまう体質なのですわ!」
   あのユミさんが、こんなに慌てているのを、ミチコは初めて目撃しました。
 「ユミさん! 大丈夫、落ち着いて!?」
   ユミさんが言いました。「ミチコさん、あなた、何かお考えがおありなの?」
   ミチコに良い考えがあった訳ではありません。ただ、ユミさんには『ユミさんらしくいてほしかった』から、言ったのです。
   でも、ミチコは、自分に何ができるのか、ミチコの電子頭脳で百分の一秒のあいだ考え、そして悩み、その千分の一秒後には決心したのです。


ミチコは、今まで人間と暮らしている間に、いろんな物語に登場するロボット達の話を聞いておりました。
   先程の百分の一秒のあいだ、それらを一生懸命思い出していました…。
   『…ミサイル…持っていないわ…ジェト推進…わたし、空なんて飛べない…四次元ポケット…ロケットパンチ……』
 人間には無理でも、ロボットのわたしにならできる事…それを考え、考え抜き、そしてミチコはある結論を出しました。でも……

   「…これをやったら、もう皆とお友達じゃいられなくなるかも…」

   ミチコは千分の一秒、悩みました。でも決心したのです。
   『…わたしはもし壊れても、誰かが直してくれるかもしれない…でも、人間は死んだら二度と生き返れないわ! …わたしの、最初の『オトウサン』のように… ユミさん! ミチコがユミさんの命をきっと守ってみせますね? …たとえ、今までどうりのお友達でいられなくなっても!!』
 そう決心して、ミチコは自分の考えを実行しました…
 

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