電人少女 第四章

『エヂソンさんとエジソンさん』

34】★紳士が言いました。 
◆「初めまして。実は私は、今現在のミチコの父でして…」と、語るその人は…そう。あの「オヤッサン」です! 
◆「…といった次第で、ミチコが行方知れずになって以来、とにかくこのままではイカン、もっとしっかりした足場をまず築かないことには、見つかるものもみつかるまい。そう思い、まず身繕いを整え、恥を忍んで古い友人知人に協力をたのみ、そうしてなんとか、ちゃんとした住まいと、ささやかな自分の会社を持つことができ、つい最近ようやくミチコの消息がわかり、そうしてこちらへ来させていただいたという訳なのです…」 
◆ユミさんが言いました。「実はこの方、ワタクシの父が大学時代大変お世話になっていた、ラグビー部のキャプテンでいらしたのです。その後、連絡がとれなくて、とても心配していたところに、久しぶりに訪ねて来られて…お話を聞いてワタクシも大変驚きましたわ。まさかこの方もミチコさんを捜しておられたなんて…」
  ◆「ユミさんのお父様には、今回並ならぬご協力をしていただけて…もう何十年ぶりかにノコノコ顔を出して、塩でもまかれて追い返されて当然、くらいの覚悟で行ったのですが、それどころか目に涙まで浮かべて…キャプテン!水臭いじゃありませんか?どうして一言僕に相談してくれなかったのです。自分にできる事があればどうか遠慮なく何でも言って下さい!…そう言って、両手を硬く握り締めて…」 オヤッサンは声をつまらせ、涙を拭きます。「ワシは世界一の幸せ者です。こんな老いぼれて落ちぶれても、まだ『キャプテン』と呼んでくれる良い後輩がいてくれたなんて…ワシはまだ見栄をはっていたのですね…なりふり構わず、もっと早くに、いろんな人に頭を下げていたら、元の家も家族も失わずにすんでいただろうに…」
  ◆ユミさんが言いました。「父が申しておりました。貴方には何度も助けていただいたと。父が事業をはじめた頃も、あなたのアドバイスで何度もピンチを乗り切る事ができたのだ。貴方がいなければ、今の我が社はとっくの昔に潰れていたと…だから、貴方の為なら全財産を担保にしても良いんだ、と…」
  ◆「…そうでしたか…そうでしたか…あなたのお父様のご協力によって、ワシは自分が創りたいと考えていたとおりの会社を持つ事ができたのです。ワシが自ら面接にあたり、年齢も学歴も国籍も問わず、体に障害がある人でも賃金に格差が無く、本人と会社との信頼の上で雇用の契約を結ぶから、就職の保証人などというクダランものは始めから無い、小さくても暖かい職場を…」
  ◆オヤッサンはもともと、優秀な大学を出て定年間近まで証券取引の第一線で働いていた人物です。勤めていた会社が急に倒産したから、畑違いの職場に再就職して苦労し、そこで怪我をおって仕事ができなくなり、仕方なくミチコと二人、公園で野宿していたのです。チャンスさえ与えてもらっていれば、このように実力を発揮できる人なのです。
  ◆エジソンさんが言いました。「お話をうかがって、たいへん良くわかりました。そうでしたか、貴方がミチコさんを発見して下さった方なのですか…」 エジソンさんは、不思議な廻り合せだなあ、と思いました。
◆「…しかし、残念ですが、ミチコさんはまだ動ける状態ではありません。どうしても手に入らない部品があって…」
◆雲の上で、ミチコとミチコのお姉さんがその様子を見ていました。お姉さんが言いました。「…困ったわねえ…でも、あの部品ならどこかで見た記憶があるんだけど…あ!思い出した!!」

35】エジソンさんたちが話していると、どこからか音楽が流れてきました。
「あら? あの音は何ですの?」
とユミさんが訊ねると、エジソンさんが答えました。
  「ああ、あれはオルゴールですよ。でも勝手に鳴り出した事なんて初めてだ…実は、子供のころ、引越の餞別にエヂソンさんがこさえてくれて、ミチコお姐さんから手渡された思い出の品だったんですが…ん? まてよ、そういえばあれに…!」
  エジソンさんは、思い出のオルゴールを、大切にしまってあるガラスケースからそっと取り出しました。そして、裏蓋を開けてなかをじっくり点検しました。
  「……やっぱりそうだった! なんて事だ? 今の今まで捜していた部品が、こんな身近にあったなんて! 皆さん、喜んでください。このオルゴールに使われてる部品を使えばミチコさんは元通り元気に目覚めます」
 ユミさんが言いました。
「…でも、それは貴方の大切な思い出の品なのでしょう? エヂソンさんとミチコお姐様の形見でもあるわけですし…」
 エジソンさんは言いました。
「良いんです。ミチコさんがこれで治るなら惜しくはありません。エヂソンさんとミチコお姐さんへの恩返しと思えば…さあ、そうとわかればグズグズしていられません。早速修理に取り掛からなければ…」

   「ミチコちゃん、良かったわね! また皆んなの所へ戻れるのよ」
雲の上で、ミチコに向かってお姉さんが嬉しそうに言いました。ミチコが言いました。
「…お姉さん、もうこれでお別れなの?」
 お姉さんが微笑みながらミチコに言いました…


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