「ミチコさん、ミチコさん!」
「ミチコや、ワシじゃよ、わかるかね?」
ミチコは、懐かしい人々の声で目覚めました。見覚えの無い、優しくて真面目そうな若いオジサンもいます。
「あ、ユミさん…大丈夫でしたか? 怪我は無かった? ……オトウサン……ごめんなさい。勝手に他所へ行ちゃったりして…もう体は大丈夫?」
ミチコの変らない気づかいに、ユミさんとオヤッサンは涙が止まりませんでした。
「ミチコさん、いいのよ、ワタクシの事なんか心配していただかなくても! ミチコさん…」
「そうじゃとも! そうじゃとも! ワシも、もう大丈夫じゃよ。心配いらん…」
あとはもう、ユミさんもオヤッサンもミチコをしっかりと抱しめ、ただただ涙を流し続けるだけでした………
その後、ミチコはオヤッサンの家で仲良く暮らしました。
オヤッサンの会社は、益々成功していき、十年もたたない間に知らない者がいないほどの企業になっていきました。
行方しれずだったオヤッサンの逃げた奥さんと娘さんが戻って来て、ミチコと対立するような事もありましたが、やがてミチコの優しさに接して打ち解けていき、オヤッサンは幸福な晩年を迎え、やがて穏やかな最後を迎えました……
なお、オヤッサンの遺言により、その遺産の多くは、働きたくても働けない、ホームレスや引き篭りの青年や中高年の失業者、身障者を支援する財団の設立資金に使われたということです……。
あと、余談ですが、ミチコを言葉巧みに騙して連れて行ったあの人は、あのサーカスの団長だったのですが、
ユミさんもミチコもいなくなってからすっかり落ち目になって、困りはてていた所に、ようやくミチコの足取りを掴んだ頃のオヤッサンが尋ねて来て、
勝手においていかれたあのお金を全額つき返されたのを良い事に、そのお金を元に『世界最大の20メートルの大蛇』を探す旅に出て、それっきり彼の姿を見た人はいなかった、ということです……。