だが、いつの世にも、平穏な社会に揺さぶりをかける者が突如出現するのが世の習いである…。
見よ! あの摩天楼の頂きに立つ怪しき人影を?!
おお、あれは人か魔か? はたまた正か邪か?!
『空想科学物語』シリーズで、ごく一部で名高い『無源社』と、『お絵かきエキスポ』で勝手に変な物語を書いてはあきれかえられている『日本よか(nipoyoka)』が、全世界の良い子にお届けする(インターネットだし…)、夢と冒険の痛快娯楽絵物語『ザ・クラッシックパンティスト〜褌豪傳(こんごうでん)』!!
空想科学の決定版! 今ココに物語の幕は切って落とされる!!
待て次回!
それに気付いた人々が集まり、やがて大群衆と化すのにそう時間は掛からなかった。
駆けつけた警官隊が、怪人物に呼びかける。
「褌男に告ぐ! フンドシ男に告ぐ! ただちにパンツを履きなさい!! お母さんが泣いているぞ?! 繰り返す! ただちにパンツをはきなさあーいっ!!」
だが、褌一丁の怪人物は悠然と構え、応じない。
やがて異形の男は、群がる群衆と警官隊に向かって、割れ鐘のごとき大音声で叫んだ。
「ええい、黙れ黙れ! 木っ端役人どもめ!! このオレ様を誰だと思う?! ……猥褻物陳列罪で国際指名手配され、地球の南北両半球を股にかけて暴れ回る、無く子も黙る『怪人フンドシ男』又の名を『クラッシックパンティスト』様とは誰あろう、他ならぬこのオレさまの事よ!! 死んでもパンツなど穿くものかっ!!」
果たして彼は何者なのか?
待て、次回!
「ケンイチ、まだ歩けるかね?」
「はい! 大丈夫です、お父さん」
と答えるその言葉は、紛れも無い日本語であった。
左様。彼らは行方知れない最愛の妻(母)を捜して世界中を訪ね歩き、そうしてとうとう、こーんなしょうもない所にまで来てしまったのであった……。
父親の方が何か発見したようである。
「うわ! なあ〜んじゃコリャ? ケンイチ、見ろ見ろ! わはは。変なの〜っ!?」
「お父さん、それは『カモノハシ』という生き物ですよ」
この光景を見た、ガイドの男が叫んだ。
「アンレマア?! 駄目ダンベ! ソッタダモン掴ンダラバヨオ!!」
しかし、オーストラリア人のひどい訛りの英語は、日本人が理解するのには時間がかかる。思えばその事が、この後繰り広げられる悲劇の始まりであった…。
突然、父親が絶叫し、のたうちまわりだした!?
「うぎゃああああ! ぎょえええええっ!!」
「あ、お父さんどうしたんですか? 大丈夫?!」
「わ〜ん! 痛てえよお〜っ?!痛てえよお〜っ?!」
ガイドの男がつぶやいた。
「…ホーレ、ダカラ言ワンコッチャネエ…」
はたして何が起ったのであろうか?
待て次回!!
愛読者諸君! オスのカモノハシの後脚には鋭い毒爪があるのだ!?
したがって、もし諸君が道を歩いている時、偶然カモノハシを見付けたとしても、このオヤジのようにうかつに素手で掴まぬよう、くれぐれも用心してくれたまえ。
さもなくば、このように悲惨な目に遭ってしまうことであろう……。
「お父さあーん! 死なないでえーっ!?」
「ぐげえ〜っ!! 死どぅ〜う〜っ?!」
「あーあ、こりゃも、ダメだんべぇよ……?」
迫り来る死の恐怖!!
果たして運命や如何に?!
待て次回!!
「お父さん、おかゆができましたよ!」
父は言った。
「……もう、いいかげんにそのギャグ使うのよした方が……」
ケンイチは首をかしげて父に尋ねた。
「え? 何の事ですか」
「……説明すると長くなるから止めておくが……昔、『シャボン玉ホリデー』というバラエティー番組があって、その番組のコントでハナ肇が病身の父親役をいつもやってて、彼が寝込んでいる枕もとに、双子の姉妹で歌手の『ザ・ピーナッツ』という人達が娘の役でこれまたいつも出演しててだな、二人揃って声合わせて「お父っつぁん、お粥が出来たわよ……」
それから約三十分あまり、ケンイチの父は話し続けた。
「……と、いうわけで、小松政夫と伊東四郎がだなあ……」
「あの、お父さん。具合悪いんだし、あまり話し込まないほうが……」
『見ごろ・食べごろ・笑いごろ』あたりで止めておかなければ、この先話は、マンザイブームから『ひょうきん族』へ行って、とんねるずとウッチャンナンチャンとダウンタウンの笑いの違いについての分析がはじまるかもしれない。それにもし、『お笑いスター誕生』の事を思い出しでもしたら、初代チャンピオンの『ギャグシンセサイザー』や幻のチャンピオン、『大木こだま・ひかり』の話とか、『小柳トム』と『ブラザー・トム』の共通性と相違点に関するマニアックな考察をはじめてしまって、さらには、『九十九一』と『リットン調査団』と『よいこ』など、シュール系のお笑いについて其々の成功と失敗、メジャー・マイナーの分岐点などについて語り始め……そう、このオッサンならばきっと夜通し話込むに違いない!?
そんな事になっては、この病身の父の身が持つまい……そう考えた、ケンイチ少年らしい機転のきいた一言であった。
ひととおり話し終えた父は、苦しい息の底から、ケンイチ少年に今、遺言めいた言葉を伝えようと考えていた……
「……ケンイチ、そこに座りなさい……」
「もう座ってます」
「『がんばれ!タブチくん』かあ〜っ?!」
「はあ〜?」
こうしてケンイチの父は、約八時間あまり余計な話をダラダラ話したあげく、静かに眠りに就いた……
おお! この
『不憫びーんびん、不憫びーんびん、不憫びんび〜ん!不憫のび〜ん!!もぉ、イヤ!!こんな生活?!』
な親子に、幸福な明日はいつ又再び訪れるのであろうか?
待て次回!
さて、所変わって、ここは北半球の港町。
“怪人褌男”は、警察の捜査網をかいくぐって、まんまと逃げおおせ、今は国外逃亡の機会をうかがいつつ、この港町に潜伏していたのであった。
だが、彼を付狙うのは何も警察ばかりでは無かった……
異形の物が、我らが褌男の前に立ちはだかり、鋭く叫ぶ!
「とうとう見つけたぞ。この裏切り者め!」
「なにおうっ? 俺様はてめえらと手を組んだ覚えはねえやいっ!」
「そっちにはなくてもこっちにはある! だいいち、貴様のような奴に好き勝手に暴れてもらっては我々の組織が迷惑するのだ。殺すには惜しい男だが、ここで死んでもらうぞ! 覚悟は良いか?!」
「そんなもん、良い訳が無いだろうが!」
言うが早いか褌男が宙に舞う。
追っ手の男は外套を放り投げた!
すると…おお?!
彼もまた褌一丁ではないか?!
彼等の正体ははたして???
待て次回!
ドン!ドン!ドン!
突然、玄関の戸を乱暴に叩く者があった。
親父さんが怒鳴る。
「やかましいやい!聞こえてるよ。鍵はかかってねえから勝手にへいりなってんだ!」
すると、銃を持った兵隊のようだけれど兵隊ではなさそうな物騒な連中がドカドカと上がり込んで来た。
「おい親父!この辺で褌姿の怪しい男を見掛けなかったか?」
「知らねえな。他をあたんな!」
「そうか。もし見掛けたらすぐに知らせてくれ。褒美はたんまり出すぜ!」
その時、奥の部屋を調べていた手下らしい男が叫んだ。
「隊長!奥に怪しい者がいました!」
「なに?褌男か?!」
「いえ、包帯男であります」
「違うよ、ミイラ男だろ?」
「…透明人間という線も考えられないだろうか?」
「ええい!くだらん事で喧嘩するんじゃない。我々は褌男以外には用は無いのだ! もういい!引き上げるぞ」
こうして、怪しげな兵隊のような連中は去って行った。
「なんでいっ!イキナリ来て、イキナリけえりやがって!? おい、母ちゃん! 塩撒いといておくんな!」
はたして今の連中は何者だろうか?
そして、包帯男の正体は?
待て次回!
だがそれは幻などではなかった!
見よ! 死神島にそびえ立つ、厳めしくも怪しき威容をはなつ、くろがねの魔城を!?
いましも、くだんの『地獄城』の大広間において、なにやら物騒な印象の者共が勢揃いしている。
そのいでたちを見るならば…おお?! あれはいつぞや、かの情に厚い日本人老夫婦の家に勝手に上がりこんで来た、怪しき軍団ではないか。
やがて一人の男がおごそかに、朗々と叫んだ。
「クイーン・ガイア様のおなーりいー!」
クイーン・ガイアと呼ばれたその妖しくも美しき女は玉座に腰掛け、威厳をこめて言った。
「……ダブルパンティストよ。あなたは、クラッシックパンティストを取り逃がしたのですね?」
『クイーン・ガイア』は、家来の一人であるらしい、ダブルパンティストとやらいう男にむかって静かに、そして冷ややかに語りかけた。
ダブルパンティストは畏れ入った様子でひざまづいたまま、地獄城の女王に告げた。
「…はっ! 申し訳ございません。しかしながら、奴めにはかなりの深手をおわせてございます! 次に見つけましたならば、その時には必ずや仕留めてご覧にいれましょう!」
と言い、おもてを上げたその顔は……。
やや? これはいつぞや、北半球の港町に現れ、クラッシックパンティストと死闘を繰り広げたあの怪人物ではないか!
いよいよ次回、クラッシックパンティストの秘密が明らかにされるのであろうか?
待て次回!
ケンイチも包帯男もすっかり元気になって野原を駆け回っている。
「まったくあの二人は本当の兄弟みたいに仲が良いねえ…」
元気よく駆け回る二人の様子をオカミサンが目を細めながら眺めている。
「ああ、なんだかセガレが帰ってきたような気がするよ…」
その言葉を聞いたオヤジさんが怒鳴った。
「馬鹿野郎! あんな穀潰しの話なんかするんじゃあねえ!」
オカミサンは、やれやれという表情で返事をする。
「あいよ! わかってますったら……」
この親切な老夫婦には、十年まえに家出した一人息子があった。
だが、今では何処で何をしているのやら、まるっきり音沙汰が無い。
そんなおり、久しぶりに若い元気な笑い声がこの家に戻って来たのであった。
『できることなら、いつまでもあの二人に居てもらいたい…』
オカミサンがそう考えても無理のない話である。
「そうら、つかまえた!」
「ちぇ、つまんないの…」
包帯男がケンイチをつかまえた拍子に、ケンイチの身に着けているペンダントが落ち、蓋が開いた。
それを見て包帯男は驚いた。
「そ、その写真は?!」
「あ、これ? この人が僕のお母さんなんだ……」
「えっ? なんだって!」
「オジサン、もしかして僕のお母さんの事を知っているの?!」
「……お、お兄さんって言えってんだようっ!」
ケンイチの母の手掛りを知る、謎の包帯男の正体は何者?
待て次回!
その時、オカミサンが叫んだ。
「あ! その顔は? リュージ!? リュージじゃないのかい?!」
クラッシックパンティストが顔を曇らせながらつぶやいた。
「…あーあ、こっちにもバレちまった…」
運命の再開!
だが、それを喜ぶ余裕もなくダブルパンティストが襲いかかる!
「死ね! 裏切り者!!」
はたして運命やいかに?
待て次回!
ダブルパンティストはなおも容赦なく襲いかかる。
クラシックパンティストはそのたびに身をかわし、狙いを外れたダブルパンティストの褌が大木を切り倒す!
クラシックパンティストが叫んだ。
「いったい何本切り倒しゃ気が済むんだ?! この環境破壊野郎めが!」
言うが早いかクラシックパンティストの褌が宙を切り裂きシュバ! と伸び、そうしてダブルパンティストの褌を根本から切断した!
「どうでい! こうなりゃもう手も足も出ねえだろうが?」
だがダブルパンティストは不敵な笑みを浮かべた。
「さあてそれはどうかなぁ…」
そう言ってダブルパンティストが千切れた褌を解くと、その下には…さらに別の褌が隠されていた!?
クラシックパンティストは思わず叫んだ。
「うーむてっきり貴様も褌一丁だとばかり思っていたがま、まさか二丁褌だったとは?!」
ダブルパンティストは勝ち誇ったように高笑いし、そして言った。
「わーはははは! なぜ私がダブルパンティストと呼ばれているのか、これでよおーくわかっただろう。今度はこっちがお返しする番だ。死ね裏切り者!」
戦いはなおも続く…待て次回!
ひゅーん……どしゃ! べちょ☆……
谷間にむなしく効果音がこだましていた……。(つづく)