「魔犬ペス」の巻

夜陰を引き裂くような女の叫び声が街中にこだまする。
「ガオディジュワァ〜ン!? カオディィー!
  ……どこへ行っちゃったのぉー?!
  ママが悪かったわ…帰って来てちょうだーいっ!!」
それは、髪振り乱し、目を真っ赤に泣き腫らしたスパーク博士が夜遅くなっても帰って来ないカオリを捜し求める声であった。

「ママ、落ち着いて! 通行人が引いてます!?」
「これが落ち着いていられますかっ!
  …嗚呼! カオリちゃん…まさか…まさか誘拐されたのでは?!
  …あああ! もしそんな事になったら
…ワタシ、とても生きていられないわ!?」

「ママ! 僕がいるんだから、たとえ何があっても心配いりませんから…」
「あなたみたいに、100メートルのビルから墜落しても死なない体では無いのよ、カオリは!
  ……ああ、カオリ! たった一人のワタシの娘…」
「え?……あの……僕もいるんですけど……?」
「ワタシが産んだ子はカオリだけなの!
  …アラン、あなたは木星の衛星イオで昔拾ったのよ?」
「……えっ?! お……お母さん、今…何とおっしゃいました…?」
「だからあ〜っ、あなたわぁー、……拾った子なの!
  ……あら? まだあなたに言って無かったかしら?
  …読者の皆さんは、第一話を読んでいらっしゃると思うからご存知かと思うけど…あなたにはまだ言ってなかったっけ?
  …貴方は、…たぶん宇宙人の孤児なのよ。
でも、でもカオリは…カオリは違うわ!
  ワタシとジョニーの『愛の結晶』なのよ!」
「………捨て子…宇宙人?!……僕は…僕は……
……ママとパパの本当の子じゃ無い?!
  …うわああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
「アラン! こんな時にふざけないで!
  なんです? 『ムンクの叫び』の顔真似なんかして?!
  …そりゃあ、ママが悲しんでいるから、
ちょっと笑わしてくれようと思ったのかもしれないけれども、
こんな時に逆効果ですよ! ふざけないでちょうだい!」
「ぼく……僕…ふざけてもいないし…笑わそうとも思ってない……
これは…これは…心の底からのリアクショ…」
「ママー♪ お兄ちゃん☆ 天下の往来でなに漫才やってんの?」
「……!? …カオリィ〜っ!!」
「やだ、ママ! 苦しいよ。あんまりギュウ! と抱きしめないで?!」
「あ”っ、あ”っ、あ”…う”っ……あ”〜あ”あ”〜ん!
  よがっだあ〜っ! 無事で良がっだあ〜っ!
  …あなた、今までどこにいたの?」
「それはね…」
カオリは今までのいきさつを話しはじめた…カオリの話によれば……

「オジョサァーン、ワタァーシワァー、決シテ怪シイ人間デハアリマセェーン☆」
と、『怪しい老紳士』に声をかけられたので、まあ本人がそう言うのだから一応信用して家までついて行ったという(良い子は決してマネしないように!)。

「だ、ダメじゃないの! いつも言ってるでしょ、知らない人についていっちゃダメよ! って。
  まったく、ママがどんなに心配していたと思ってるの!」
「まあ、結果オーライ! っていう感じかな。
あ、晩ご飯向こうでご馳走になって来たからね。家帰ってから用意しなくても良いわよ」
「…あなた、将来大物になるわね、たぶん…で、その人どういう方なの?」
「動物の研究をしている科学者で、デビル博士っていうんだって。ペスの事気に入ってくれて、引き取ってくれた、本当に良い人よ♪」
「デビル博士…なんか聞いたことあったような…まあいいわ。
帰ってからゆっくり聞きます。…アラン、ほら! ボンヤリしてないで、早く家まで遊星号に乗せてってちょうだい」
「…あ、あああああ…ぼ、ぼくぅ〜っ!? …ママとパパの子じゃ…」
「なにをブツブツ言ってるの? さあ、帰るわよ!」
三人は遊星号に乗り込んだ。

「きゃあーーー!? アラン、どうしたっていうの?
  ま、真っ直ぐ飛びなさいってば! ぶ、ぶつかるぅ〜っ?!
  早くあのビルを避けなさいってば!?」
「……あ、ああ、あううう…
カオリちゃんとも本当の兄弟じゃ無かったんだ
…他所の子なんだ…ぼくは…僕は…うわーーーーんっ!」
「ひえ〜〜〜っ?! し、死ぬぅ〜っ!?」

間一髪、スパーク博士が自動操縦のスイッチを入れて、アランには操縦をやめさせ、
三人はなんとか無事に生きて帰宅したのであった…



ここはデビル博士のお家。
「オウ♪ ペス君ワ、オリコウサンデェースネエ♪ カワイーデ〜スネェ〜!」

キャン♪ キャン♪

「ソウデースカ、ソーデェースカ♪ …ワンチャン、トテモ、トーテモ、可愛イデェース♪
  …デモ、人間、トテモ、トーテモ残酷デェース!
  コンナ可愛イワンチャン、平気デ捨テマース!」

クーン、クーン?

「オウ! オ目々、ウルウ〜ル☆ オ鼻クゥーンクゥ〜ン♪
  ト…トテツモナク、コトノホカ、コノウエモナーク、
キャ〜ワユ〜イデェース♪」

アン♪ アン♪ アン!

「ワンチャン、三日飼ッタラ恩忘レナイデェース。
  …デモ、人間、スグ裏切リマース! 人間、根性汚タナーイデェース!?
  …ワターシ、考エマーシタ。
  …根性ノ汚イ人間ガ、万物ノ霊長言ウノ変デェース?!
  恩ヲ忘レナーイ、カシコーイ、ワンチャン、地球ノ支配者ナルノガ良イ事ナノデェース!」

クーン?

「ペス君ハ、トテモ、トーテモ、オ利巧サンデース♪
  ダカラ、ワターシガ、モーットモーット、オ利巧サンニシテアゲマァース☆
  …ペス君、良イデショ? アナータ、地球ノ支配者オナリナサァーイッ!」

ワン! ワン!

「ホホホ! ソウデースカ、ソウデースカ! ヤル気満々デースネ♪」

はたして、デビル博士は何を企んでいるのであろうか?!


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