電人少女 最終章

41】★小さい女の子はミチコの顔を見て、にっこり笑ながら言いました。
「ミチコちゃん、こんにちわ! 」 
ミチコが女の子に訊ねました。
「こんにちわ。お嬢ちゃん、お名前は?」 
小さな女の子が答えました。
「ワタシ、ユミちゃん! あのねえ、ワタシのお名前、昔むかしの、ユミちゃんのエラーィ、大お婆チャマのお名前と一緒なんだって。ミチコちゃん、大お婆チャマのこと知ってる?」 
◆ミチコは、その子の顔を一目見て、この子がどういう子どもなのか、すぐに理解しました。 
「あのね、ママがね、ワタシがミチコちゃんに会いにいったらきっと喜ぶと思うから行ってきなさいって言うから来たの!」 
……この小さな女の子には、ミチコにとって懐かしい人々の面影がすべて備わっているのです?!  
ミチコは胸が一杯になりました。そして、小さいユミちゃんの顔をもう一度よく見ました。 
初めてのオトウサンのエヂソンさん。その娘さんのミチコお姉さん…おそらく、エヂソンさんの兄弟の誰かの子孫と、逃げた奥さんから生まれた子供の子孫が、後にどこかで結婚していたのでしょう…二番目のオトウサンだったオヤッサンの面影も…ミチコを治してくれたあのエジソンさんの面影も……そして、そして誰よりもこの子は、ミチコにとって一番思い出深いあの…… 
『ああ! ユミさん! お父さん! お姉さん! エジソンさん! こんなにも長い年月をかけて、またはるばるとミチコに合いに来てくれたのですね!』 
◆ミチコは小さいユミちゃんをそっと抱き上げました。小さなユミちゃんが言いました。
「ミチコちゃん、暖かいんだね?」 
「まあ、本当? 嬉しいわ」 
「ユミちゃん、ミチコちゃんの事だあーいすき!」 
「ミチコもユミちゃんのことだあーい好きよ!」 
「あ、ミチコちゃん、泣いてるの? 涙出てるよ?」 
「え? あら、雨かしら? 変ねえ、とてもお天気良いのに…それとも本当に嬉し涙が…そんな訳ないか…」


★ユミちゃんのパパは宇宙飛行士で、地球から何十光年も離れた惑星の調査に出掛けていたのですが、今夜地球に戻って来るという事でした。
ミチコのいる美術館は宇宙空港からわりと近く、帰ってくる宇宙船がよく見えるという理由もあって、小さいユミちゃんはママといっしょにここにやって来たのでした。 
「ユミちゃんとママね、昨日までずーっとおねんねしてたんだよ。そうしてないと、パパをまってるあいだに二人ともお婆ちゃんになっちゃうからなんだって。『こーるどしゅりーぷ』って言うの。ミチコちゃん、知ってた?」 
「あらそうなの! じゃあ、ずーっとおりこうにおねんねしてたのね。ユミちゃん偉いねえ?」 

もうすっかり日が暮れて、空には星ぼしが瞬いています。
ミチコが生まれた頃に星から飛んで来た光が今、ミチコの目に輝いて見えます。 
誰かが昔生まれて、今日私と出会う…星の光は、光の速度で今私に届いている…同じ年月をかけて今日誰かと出会う…光の速さも人の出会いも同じ速さなのかしら…? 
ミチコは、そんな不思議な感傷に浸っています。 
◆ミチコの言葉を覚える能力は今では全世界の言語のほかにも、いくつかの動物や鳥の言葉や、植物のサインも理解できるようになっていますし、状態の良い時などは、地球外生命からの電波も受信して、その内容を理解するまでになっていました。
いつかそんなミチコの能力が人々の役に立つ日も訪れるでしょう… 
◆この夜は、流星群が地球に降り注ぐ日でもありました。 
「わあ! お星様がいっぱい降ってきたあ?!」
ユミちゃんはすっかりご機嫌です。ミチコが言いました。
「綺麗ね…ユミちゃんの大きいお婆チャマもとっても綺麗な方だったのよ。お婆チャマのお話、聞きたい?」 
「うん! 聞きたい」 
「じゃあ、ユミちゃんのパパが帰ってくるまで、お婆チャマのお話してあげるわね。昔々……」 
ミチコは小さなユミちゃんに、ユミさんたちの物語りを優しく語って聞かせています。
◆ミチコはユミさんの子供時代を知りません。しかし、今目の前にいる小さなユミちゃんは、ユミさんが小さい頃はきっとこうだったろうと思わずにはいられないほど、髪の色も目の色も、何かをする時の仕草の一つ一つも、ユミさんそのものでした。 
◆あれから何世紀、そう、何百年も経っているのに…人間はどこかで必ず遺伝子という絆で結ばれていて…こうしてまた会いに来てくれた……。 
◆やがてミチコたちの頭上に、流星群の中から一つの星が近付いて来ました。
「あ、あれパパだ! きっとパパの宇宙船よ!」ユミちゃんは立ち上がって手を振りました。 
◆ミチコにとって、時間とは人間が感じているものとはだいぶん違ったものです。
何千分の一秒で思考し、何世紀も生き続けるミチコにとって、一瞬はとても長く、そして、人間の一生はまさに流れ星のようにはかないものです。
しかし、ミチコは、そう、ちょうど人間たちが流れ星に願いをかけるように、はかない人間の一生に願いをかけるのでした。
…どうか皆が幸せになれますように…
◆ミチコは、小さなユミちゃんをそっと抱き寄せながら、遥かに流れ去った歳月に思いを馳せ、そっとつぶやきました……
「……時の流れって…なんて素晴らしいのかしら……」(電人少女・完)

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